意外と多いリニューアルによる改悪

市況に合わせたサービスの変化やWebデザインのトレンド変化など様々な状況の変化に伴い、数年に一度のスパンでWebサイトのリニューアルを行っている企業が多いと思います。そしてそのリニューアルにおいては、大きなコスト(お金と人の時間)をかける分、当然ながら投資対効果を出したいものだと思います。

しかし、Webサイトの分析、UI改善に携わる中でこのサイトリニューアルによりKPIの数値が改悪するケースが意外に多いです。想いが強さから「本末転倒」が起きてしまっていることが大きな原因なのではないかとの感じています。

ユーザードリブンを装う”ワタシ”ドリブンの危険

以下のような上層部の意見からサイトのリニューアルを進めた経験がある方も多いのではないでしょうか?

  • 現状のサイトは使いにくいからユーザーも同じことを感じているはずだ
  • 情報確認の工程が長いので、数クリックで完結できるようにすべきだ
  • 大切な情報が見えにくいからユーザーは困ってるはずだ
  • デザインが今っぽくないからユーザーがついてこないんだ

入口はユーザー起点となっているものの、実態はユーザードリブン(データドリブン)ではなく、個人の主観をベースとした”ワタシ”ドリブンでの課題抽出、サイト設計になってしまいます。よほど勘の良い方であれば、この課題抽出とサイト設計のプロセスでも成果につながるかもしれませんが、なかなか思うように成果に繋がらないことも多いように思います。

リニューアル後の火消し改善

サイトリニューアルは大きなにコスト(お金と人の時間)が発生するため、企画時にKPIの改善目標値が設定されていると思います。リニューアル後にその水準に満たない場合は、考えられ得る課題をひたすらつぶしていき、何とかパフォーマンスを高めていこうとされると思います。過去に何度かリニューアルによりパフォーマンスが改悪してから分析やサイト改善のご相談を頂くこともありましたが、この状況下のPDCAは最速での成果が求められるため、心身ともになかなか堪える仕事になりますよね。。そうならないためにも、サイトに手を入れる前の事前準備をしっかりと行いたいところです。その準備のプロセスについてよく用いるフレームワークを例に後述させていただきます。

施策立案前のプロセスに3C分析を取り入れる

サイトの課題抽出、設計時に3C(①Customers(顧客)②Company(自社)③Competitors(競合))のフレームワークを取り入れると成功確度が高まります。具体的なプロセスについては後述しますので、サイトやアプリのリニューアル、その後のPDCA運用の際に参考にしていただければと思います。

①「Customers(顧客)」の分析により心理・行動変容を理解

顧客の分析手法としては、ペルソナ・カスタマージャーニー設計、アクセス解析を用いることが多いです。
ペルソナ・カスタマージャーニーを設計することで、ターゲットの人物像とゴールまでの行動と心理状態の変遷についてチーム内で共通認識を持つことができます。ここでの整理はすべて”ユーザー”を主語とし、提供者側の主観は極力排除して整理をしていくようにしましょう。また、このタイミングで各ステップを突破するために必要となる機能や情報について洗い出しておくようにします。

ペルソナ例
カスタマージャーニー例

アクセス解析は、上記のカスタマージャーニーを定量的に補完することができます。定量化するポイントは主に2つあります。1つ目は、どの地点でどれくらい根詰まりが起きているのかを明らかにすることです。ここが分かると、改善対象の優先順位をつけることができ、目標到達までのシナリオを設計することができるようになります。

2つ目は引き上げるトリガーとなる行動を明らかにすることです。機能や情報(ページ)に接触している量(利用率)と成果への至りやすさ(CV貢献)を分析することで、機能や情報のポジショニングを把握することができます。
この数値を踏まえ、カスタマージャーニーを調整するようにしましょう。

②「Company(自社)」③「Competitors(競合)」の価値構造を整理

以下の「Points of X」の競合分析フレームワークを用いて、ユーザーが求めている価値を3つに分けて分析します。

  • POD(Points of Difference):商品やサービスの付加価値(自社の強み)
  • POP(Points of Parity):サービスの基本価値(必要とされる基本条件)
  • POF(Points of Failure):満たしていない価値(自社の弱み)
points of X 分析例

ここで洗い出された価値については、Webサイト上の情報設計に大きくかかわります。
自社のPODや競合のPOFに該当するものは、しっかりと訴求することで最後の決定打になる得る情報となります。
また、POPに該当するものは漏れなく訴求しておく必要がありますし、自社のPOFに該当するもの訴求の仕方を工夫する必要があります。

上流のマーケティングのフレームワークではありますが、ユーザーとのタッチポイントとなるWebサイトも同じ戦略に則ることが重要です。サイトリニューアル時などのタイミングで改めて整理をすると、訴求すべきポイントがクリアになってくると思います。

②「Company(自社)」③「Competitors(競合)」のWebページ構成を分析

上記が上流の競合分析であるのに対し、こちらは下流に位置するWeb上のUIの比較分析となります。Webページ上の機能、コンテンツ、活用素材、求文言、ボタンの数、掲載順序に至るまで、細かく比較分析を行います。この比較の粒度は、サイト設計に直結しますので、極力細かく行う必要があります。上述のCustomer(顧客)の分析により対象ページのポジションと課題、先のステップへ進めるための態度変容が可視化されていることが前提になりますが、その情報と自社、及び競合のUIを照らし合わせると、現Webサイトと理想の状態とのギャップを明確にすることができるようになります。また、競合サイトを複数確認することで、ギャップを埋めるためのコミュニケーション方法のヒントを得ることができます。

競合UI比較例

なお、比較分析を行うすべてが同業でなくても良いと考えています。例えば、求人サイトはECサイトを参考にすることができます。どちらもサイトの構造は「TOP」「求人/商品一覧」「求人/商品詳細」「フォーム/カート」といった階層構造になっており、ユーザーの行動プロセスも、数ある求人/商品の中から自分のニーズに合ったものを探し、意思決定するため共通になります。このような類似構造を持つサービスサイトも含め、より大きなデジタルマーケティング予算を割いていて先端を走っている(と思われる)サイトもチェックしておくと、具体仕様まで落としこみやすくなると思いますので、参考にしてみてください。

ページ単位で5W1Hを用いてストーリー設計をする

ここまでの工程を辿ることで、現サイトの課題やリニューアルで重要となる要素(機能や情報)、改修の方向性について、根拠(Why)を以て具体化していくことができるようになります。

この後はページ単位の構成案を作成していく流れになりますが、これまでの過程で整理してきた以下のポイントを留意して設計するようにしましょう。

  1. どんな状態の誰(主/副)が何を求めて接触するページなのか:Who
  2. ページの役割(主/副)は何か
  3. その役割を果たすための機能や情報は何か:What

【主/副】と記載しているのは、固有のページに接触するユーザーのタイプは1つではないことが多いためです。
ECサイトのカート画面に訪れるユーザーを例に考えると、訪問ユーザーは以下のような状態に分類することができます。

  • 買うことを決定しているユーザー:主
  • とりあえずカートに入れた状態で比較検討中のユーザー:副1
  • まだカートに商品は入れておらず、これから探そうとしているユーザー:副2

カートは「安心して決済に進んでいただくための情報を提示すること」が主の役割だと思います。その役割に紐づく機能や情報は、決済へ進む導線、カート内の商品情報、利用可能ポイント数、決済手段や配送に関わる情報等が該当します。ユーザー群ごとに求められる役割が変わってきますので、複数のユーザー群の訪問が考えられる場合は、それぞれのユーザー群が求めているページに対する役割とそれに紐づく機能/情報を整理していきます。

基本的には主となるユーザーに向けた機能や情報を優先するように設計し、副に該当するユーザーに向けた機能/情報については、主のユーザー群の行動を阻害しないように場所やタイミング(Where/When)、提示方法(How)を検討し、特に優先度の高い機能/情報を盛り込んでいくと、全体としてパフォーマンスの向上が期待できるバランスの取れた構成にすることができます。

ユーザー群毎のUI最適化(パーソナライズ)の検討

前述のように1つのページでも訪問するユーザーの心理状態は様々です。この様々なユーザーに対して個別に最適な機能と情報を提供できるようにするのがパーソナライズになります。

パーソナライズをするためには、分けたい対象の人を特定するための情報蓄積機能とそのユーザーに対して最適な機能/情報を提供するための画面表示機能が必要となるため、通常よりもコストがかかります。
また、ユーザーを細分化するため、施策の影響範囲は、全体に講じる施策に比べると小さいくなってきます。

そのため、ベースとなるページは上述のような考えに基づいて設計をし、まずは全体として高いパフォーマンスとなるようにPDCAを回し、その後パーソナライズを検討していくことをオススメします。パーソナライズを行っていく場合は、細分化しすぎないように注意が必要です。インパクトが小さくなりリターンが得られなくなってきますし、影響度を確認するためのデータもたまらなくなってしまうため、良し悪しの判断がつきにくくなります。初めは1画面に対して2~3分類程度のユーザー群に分けてPDCAを回し、その反応を見てからユーザー群の再定義を検討するようにしてみてください。